以下のシナリオを検討してみましょう。ある企業が非常に能力の高い従業員を1人または複数見つけて、その人材をトレーニングし、能力を伸ばすために時間、費用、リソースを費やします。数年が経ち、その従業員は、会社にとって不可欠な人材に成長し、要職に就き、今では会社の短期、中期、長期計画に密接に関係するようになりました。
そんなある日、従業員は退職して、競合企業に転職することを発表します。
貴社は、その従業員の潜在能力を見抜き、トレーニングの機会を提供し、その従業員自身と会社の両方のために成功するように役職を与えました。それが今や、その従業員は退職してチームに穴を開けるだけではなく、貴社がこれまで費やしてきた時間、トレーニング、専門知識が競合企業のために使われようとしています。これは、どの企業にとっても悪夢で、できる限り避けたいシナリオです。
これは特に、上級職の有能、または潜在能力が高い人材の場合について言えます。その他の資産はともかく、優秀な人材を維持できない企業が成長する可能性は低いでしょう。
役員報酬計画で優秀な人材を維持
では、重要な従業員が他社から魅力的なオファーを受けた時に、退職しないで、自社に残ることを選択するような状況を作るには、どうすればよいのでしょうか?
まず、それは金銭的な報酬がすべてではありません。仕事と生活の健全なバランス、素晴らしいマネージャー、柔軟な勤務体制、自身の価値観に合った仕事など、人はさまざまな理由から、企業に対する忠誠を維持するので、単純に金銭だけを重視する従業員のリテンション戦略は最終的に失敗します。
しかし、給与や賞与、福利厚生が他社に劣る場合、(特に優秀な人材の場合は)自社に残りたいという動機としてこれらの理由はみるみる消滅します。給与や福利厚生に変化がない場合、1) その人材は他社から似たようなオファーを受ける、2) 通常業務以上の成果をあげようという動機がなくなる、という新たな問題も生じます。
多くの役員報酬計画には、業績に連動する賞与やストックオプション、株式が含まれます。これは、その役員がKPIを達成すると、その仕事が直接多額の報酬にも連動しているため、意欲を高めるというものです。
そこで、役員賞与計画の中に、報酬予定額のレイヤーを追加します。この報酬は時間、業績指標、その他の合意した指標に基づいて決定します。こうしたタイプの報酬に関する心理は単純で、人々が潜在的な利益を諦めたくないようなフレームワークを作りたいということです。
それを念頭に置いて、多くの企業は重要な人材が長期にわたって在籍することを促進するため、「金の手錠」を使用しようとします。
「金の手錠」の仕組みとは?
「金の手錠」はしばしば、優秀な人材を長期間維持する方法である
この用語に馴染みのない方のために説明すると、「金の手錠」とは、個人が現在勤務している会社に在籍している限り、付与される金銭的または金銭以外の恩恵を指します。これは退職した時、または特定期間が経過する前に退職する場合には権利を喪失し、返還を求められる場合もあります。この背景にある理論は、インセンティブがあまりにも魅力的であるため、離職した場合の悪影響が非常に魅力のないものとなり、結果として、会社にとって必要不可欠な従業員や役員が他社に転職するオファーを拒絶するというものです。
一般に、「金の手錠」が機能する方法は、2つあります。特定のインセンティブは、一定期間における分割払いか業績連動型の支払い、または合意した年数の後の一括払いのいずれかとなります。
分割払いまたは業績連動型の場合、報奨金は現在および将来の業績に連動します。一括払いの場合は従業員の長期的なリテンションを念頭においています。例えば3年後に報奨金が自分のものになる契約に同意すると、少なくともその3年間は在籍する可能性が高いでしょう。
その時期の開始当初は、外部からのオファーに魅力を感じることがあるかもしれませんが、特定の時点を過ぎると、その特典を逃すことが離職しない積極的な理由となります。
個別に見ると、実際のインセンティブには多くの異なる形式があります。当然のことながら多額の賞与とストックオプションが効果的ですが、それ以外にも、一部の企業は重要な従業員を「ロックイン」しようとして、保険、退職プラン、その他の特典を提供しています。こうした措置に共通していることは、権利を獲得には時間がかかるということです。これが従業員リテンションの鍵となることがおわかりいただけると思います。
役員報酬における「金の手錠」のメリットは?
インセンティブにより、幹部役員がはるかに深く関与し、「賛同」する上級役員となる可能性があります
このタイプの役員報酬制度においては、会社と対象となる従業員の両方に利益があります。最も明らかなレベルでは、「金の手錠」が有効に機能する時、会社は主要役員や他の従業員を長期間維持することができるという貴重な利点がある一方、その対象となる個人は取引終了時まで在籍すればインセンティブ(現金、株式、賞与、その他)を受け取ります。そのため、その意味で、典型的なwin-winシナリオになります。しかし、それ以上に、以下のような利点もあります。
維持と獲得(2回)
#1 上述のように、企業が重要な人材を競合会社に取られると、会社は人的資産を喪失し、競合企業は優秀な人材と共にその専門知識、経験、ノウハウをすべて獲得するため、二重の痛手になります。会社がそうした個人を維持する時、会社はその従業の高い業績から恩恵を受けるだけでなく、その優秀な人材に競合企業がアクセスすることができなくなります。その場合、競合企業が同等に優秀な代替の人材を見つけることができないというわけではありませんが、競合企業は、内部で人材を育成するか、別の企業から引き抜いてくる(別の競合企業が痛手を受けます)かいずれかの方法で、人材を確保する必要があります。
投資を最大限活用する
#2 人材への投資は文字通り投資で、時間と資金が絡んできます。シニアの従業員が会社を去る時、実質的にその投資の果実を持っていきます。残された会社は、ポジションが空いてしまい、それを埋める人材の採用とトレーニングのプロセスにもう一度時間と高額の費用をかけて取り組むことになります。有効な「金の手錠」があれば、従業員が離職する可能性ははるかに低くなり、会社はそのポジションの採用やトレーニングプロセスに直面する必要がなくなります。
目的を持った役員報酬戦略
#3 役員や別の重要な従業員が適切に報奨金や賞与を受け取っていれば、さらに会社の「味方」になります。インセンティブが個人の業績と会社の成長に連動している場合、その個人はやる気を失いません。そのシナリオでは、会社は従業員が長期にわたって最善の努力をすることに自信を持つことができます。
リテンションは魅力を感じてもらうこと
#4 こうしたインセンティブは、既存の従業員の維持だけでなく、優秀な人材を採用するためにも使用することができます。会社が、シニアポジションのために定評のある候補者の採用を検討している場合、その人はおそらく現職で魅力的な給料を受け取っていることでしょう。転職するよう納得させるためには、破格の給与と期待できるキャリア機会に加え、魅力的な「金の手錠」を追加することが、決定的な要因となる場合があります。
様々な理由で、企業は「金の手錠」契約を従業員に提供することを検討することができます。そして効果的な「金の手錠」契約を提供できる場合は、両者にとって利益となるでしょう。会社の視点から見ると、金の手錠は安定と従業員のリテンションを促進し、役員やその他の従業な従業員は、現在の勤務先に留まることを奨励するよう設計されたインセンティブから恩恵を受けるでしょう。
注意:本出版物には一般情報のみが含まれており、Global sharesは本記事を通じて、法務、財務、税金関連、ビジネス関連、専門分野などのアドバイスを提供するものではありません。Global sharesアカデミーは、専門的なアドバイスの代わりとなるものではなく、その目的で使用すべきではありません。Global sharesは、本書に記載された情報を信頼したことによる結果に対して、一切責任を負いません。